漢方治療エビデンスレポート
日本東洋医学会EBM委員会エビデンスレポート/診療ガイドライン タスクフォース
2. 癌 (癌の術後、抗癌剤の不特定な副作用)
文献斎藤信也, 岩垣博巳, 小林直哉, ほか. 胃癌・大腸癌の手術侵襲に対する漢方補剤TJ-41
の 効 果 に つ い て. 日 本 臨 床 外 科 学 会 雑 誌 2006; 67: 568-74. 医 中 誌 Web ID: 2006114494 J-STAGE
1. 目的
胃癌と大腸癌患者に対する、補中益気湯の術前投与による、手術侵襲の軽減効果の評 価
2. 研究デザイン
ランダム化比較試験 (RCT) 3. セッティング
岡山大学消化器腫瘍外科、他に病院6施設 4. 参加者
胃癌、大腸癌の術後患者 48名 (胃癌10名、大腸癌38名) 5. 介入
Arm 1: 術前1週間ツムラ補中益気湯エキス顆粒 7.5g/日投与 (22名)
Arm 2: 非投与例 (26名) 6. 主なアウトカム評価項目
術直前と術後1日目に、cortisol, sTNF-R, sIL-2Rを測定。
術前、術後1, 7日目に、白血球、白血球分画、
術前、術後1, 3, 7日目に、CRPを測定した。
術後の熱型と脈拍数、術後退院までの期間、術後抗生物質を治療的に投与した患者数
7. 主な結果
白血球、白血球分画、CRP: Arm 1とArm 2で、有意差はみられなかった。
Cortisol: 手術前後でArm 1がArm 2より増加率が有意に小さかった。
sTNF-R, sIL-2R: 手術前後でArm 1とArm 2で、増加率に有意差はみられなかった。
術後の熱型: 第6病日以後は、Arm 1がArm 2より有意に低かった。
術後の脈拍数: 第6、7病日は、Arm 1がArm 2より有意に少なかった。
術後抗生物質を治療的に投与した患者数: Arm 1 (3/22) がArm 2 (11/22) より有意に少な かった。
8. 結論
ツムラ補中益気湯エキス顆粒の術前投与は、手術侵襲に対する反応を軽減し、術後の 速やかな回復に有用な可能性がある。
9. 漢方的考察
なし
10. 論文中の安全性評価
有害事象: Arm 1で副作用は認めなかった。
11. Abstractorのコメント
著者らは、補中益気湯の術前投与が、術後回復期の患者のQOLを向上させ、発熱、心
拍数を抑制し、抗生物質の治療的投与例数を減らす効果があり、医療費の削減につな がる可能性があると主張している。そしてその機序として、漢方薬により血中に増加 したコルチゾールが関わっていることを示唆している。これは、オメガ 3系脂肪酸、
アルギニン、核酸などを用いる「免疫栄養法」の考え方と共通するものであり、術前 に行う栄養サプリメントにより、術後の手術合併症の発生を抑制しようとする試みで ある。術前の担癌患者は、様々な不安を抱えている気虚の状態にあり、なおかつ
Operable な状態であれば比較的血虚の程度は軽く、補剤の中でも補中益気湯程度が適
当と思われる。今後、補中益気湯と免疫栄養法の併用を検討すること、およびその機 序をさらに明らかにしていくことが望まれる。
12. Abstractor and date
星野惠津夫 2009.3.15, 2010.6.1, 2013.12.31